荷待ち・荷役時間は、長年にわたってドライバーの拘束時間を押し上げてきた最大の要因のひとつです。2025年4月に施行された物流効率化法(正式名称は「物資の流通の効率化に関する法律」)によって、この時間を短縮することは荷主と物流事業者の努力義務になりました。さらに2026年4月からは、一定規模以上の事業者に中長期計画の作成や定期報告といった義務も課されています。「荷待ちが長いのは昔からのことだから仕方がない」と諦めてきた運送会社にとって、この制度は交渉のテーブルにつくための新しい足場になります。
そして、その足場を実際に使えるかどうかを分けるのが「記録」です。荷待ち・荷役の時間は、貨物自動車運送事業輸送安全規則によって以前から「業務の記録」への記載が義務づけられています。ところが現場では「30分以上待たされたのは覚えているが、何時何分に着いて何時何分に積み始めたかまでは残っていない」という状態が珍しくありません。本記事では、制度の全体像を押さえたうえで、運送会社側がどんな記録を、どう残し、荷主との交渉や行政対応にどう使えばよいのかを整理します。
荷待ち・荷役時間とは何を指すのか
制度上の定義ははっきりしています。荷待ち時間とは、集貨・配達を行う場所やその周辺で、荷主やその場所の管理者などの都合により、貨物の受渡しのために待機した時間です。荷役等時間とは、荷役その他の附帯業務に従事した時間を指し、荷積み・荷卸しだけでなく、検品、搬出・搬入、保管、仕分といった作業も含まれます。
いずれもドライバーの労働時間には含まれるにもかかわらず、直接の運賃収入には結びつきにくく、長年「見えないコスト」として運送会社側が一方的に負担してきました。とくに荷待ち時間は、荷主側の入荷体制や倉庫の混雑状況に左右されるため、ドライバー一人ひとりの努力ではどうにもならない構造的な問題です。
背景には、特定の時間帯に入荷トラックが集中してしまう「入荷ピーク」、荷役作業員の人員不足、予約受付システムが整備されていないことによる到着順の管理不備といった要因が絡み合っています。ドライバー側が到着時刻を調整しても、結局は倉庫側の都合で待たされてしまうため、個社の努力だけでは解けない構造がここにあります。この「言い出しにくさ」を制度の力で崩そうとしているのが、今回の一連の規制強化だと捉えると分かりやすいでしょう。
荷待ち・荷役等時間はいま平均で何時間かかっているのか
国土交通省が2026年7月に公表した最新の調査結果によると、トラックドライバーの1運行あたりの平均拘束時間は10時間13分、そのうち荷待ち・荷役等時間は2時間2分でした。前回調査(2024年度)と比べると、運転時間はほぼ横ばいのまま平均拘束時間が1時間33分短くなっており、その主因は荷待ち・荷役等時間が1時間16分減ったことだと分析されています。制度対応の効果が、業界平均という数字にはっきり表れはじめた形です。
一方で、物流効率化法の基本方針は「1運行あたりの荷待ち・荷役等時間を2時間以内」「1回の受渡しごとは1時間以内」という目標を掲げています。平均2時間2分という水準は、その目標ラインをわずかに超えたところにあります。平均がここまで下がってなお目標に届いていないということは、平均を押し上げている長時間の運行が依然として残っているということでもあります。自社がその側にいるのかどうかは、記録を取っていなければ判断できません。
数値を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 1運行あたりの平均拘束時間(2025年度調査) | 10時間13分 |
| うち荷待ち・荷役等時間(2025年度調査) | 2時間2分 |
| 前回調査(2024年度)からの平均拘束時間の変化 | 1時間33分の短縮 |
| 前回調査(2024年度)からの荷待ち・荷役等時間の変化 | 1時間16分の短縮 |
| 物流効率化法の基本方針が掲げる目標 | 1運行あたり2時間以内、1回の受渡しごと1時間以内 |
なお、この改善は制度対応だけで実現したものではなく、物流2024年問題への対応として業界全体が稼働時間の使い方を見直してきた結果でもあります。裏を返せば、稼働時間の制約が厳しくなった今、荷待ちで2時間を失うことの重みは以前より格段に増しています。長時間の荷待ちを放置すれば、労務トラブルやドライバーの離職にもつながりかねず、担い手不足がいっそう深刻になります。
荷待ち・荷役時間の短縮が努力義務になった制度の全体像
物流効率化法は、2024年5月に公布された改正によって、それまでの「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から名称と中身が大きく変わりました。施行は段階的です。
2025年4月1日からは、規模を問わずすべての荷主・物流事業者に、次の3つの努力義務が課されています。
- 積載効率の向上等(1回の運送で積載する貨物量を増やす)
- 荷待ち時間の短縮(到着から荷役等の開始までの待ち時間を短くする)
- 荷役等時間の短縮(荷役の開始から終了までの時間を短くする)
この3つの具体的な中身は「判断基準」という省令で定められており、トラック予約受付システムの導入やパレットの活用といった打ち手が並びます。あわせて、荷待ち・荷役等時間や積載効率の状況を適切に把握すること、そしてそれをデジタル技術の活用等により効率的に行うよう努めることも求められています。制度が「短縮しなさい」と同時に「把握しなさい」と言っている点が、実務上いちばん重要なポイントです。
2026年4月1日からは、これに加えて一定規模以上の「特定事業者」に対する義務が始まりました。
| 対象 | 求められること | 開始時期 |
|---|---|---|
| すべての荷主・物流事業者 | 荷待ち時間の短縮・荷役等時間の短縮・積載効率の向上等(努力義務)と、その状況の把握 | 2025年4月1日 |
| 特定貨物自動車運送事業者等(保有車両150台以上が指定の目安) | 中長期計画の作成、定期報告 | 2026年4月1日 |
| 特定荷主・特定連鎖化事業者(年間取扱貨物9万トン以上が指定の目安) | 中長期計画の作成、定期報告に加え、物流統括管理者(CLO)の選任 | 2026年4月1日 |
中小の運送会社の多くは、保有車両台数の面で特定事業者には該当しません。しかし努力義務と「状況の把握」は規模を問わず全事業者にかかりますし、それ以上に見逃せないのは取引先の荷主が特定事業者に指定されている場合です。指定を受けた荷主は、中長期計画と定期報告のために自社の荷待ち・荷役の実態を数字で示さなければなりません。そのとき、正確な記録を持っている運送会社は、荷主にとって「都合の悪い相手」ではなく「報告に必要なデータを出せる相手」になります。記録は交渉の武器であると同時に、荷主に選ばれる理由にもなり得るわけです。
自社や取引先が特定事業者に該当するかどうかは、国土交通省の「物流効率化法」理解促進ポータルサイトで指定基準を確認できます。
運送会社に課されている記録義務の中身
ここまでは物流効率化法の話ですが、荷待ち・荷役時間の記録については、それとは別に貨物自動車運送事業輸送安全規則の第8条(業務の記録)が以前から義務を定めています。新しい制度への対応を考える前に、まずこちらを満たせているかを確認するのが順序として正しい進め方です。
対象となるのは、いまはすべての事業用自動車です。もともとは車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上のトラックに限られており、荷主等の都合により30分以上待機した場合の荷待ち時間の記録が2017年7月1日から、荷役や附帯業務を実施した場合のその内容と時間の記録が2019年6月15日から、それぞれ記載対象に加えられてきました。この車両の限定は、2024年10月1日公布・2025年4月1日施行の規則改正で撤廃され、対象が全車両に拡大されました。30分以上の荷待ちが記録の対象になる点は、改正後も変わりません。記録は1年間の保存が必要です。荷役等については、契約書に実施した荷役作業等がすべて明記されている場合は、要した時間の合計が1時間以上になったときが記録の対象となり、1時間未満であれば記録は不要です。
具体的に押さえるべき時点は、次の4つに集約できます。
| 記録するタイミング | 記録する内容 |
|---|---|
| 集貨・配達地点への到着 | 地点の名称と到着時刻(荷主から到着時刻の指示があればその時刻も) |
| 荷待ちの開始と終了 | 待機を始めた時刻と、待機が終わった時刻 |
| 荷役等の開始と終了 | 積込み・取卸し・附帯業務の開始時刻と終了時刻、作業の内容、荷主の確認の有無 |
| 集貨・配達地点からの出発 | 出発時刻 |
これらを突き合わせれば、荷待ち時間(到着から荷役開始まで)と荷役等時間(荷役開始から終了まで)がそれぞれ算出できます。逆に言えば、この4つの時点さえ正確に押さえておけば、制度が求める数字も荷主に示すデータも、すべてそこから作れるということです。
ひとつ注意したいのが、荷待ち時間の起算点です。荷主から到着時刻の指示があり、それより早く着いた場合は、指示された時刻から荷役開始までが荷待ち時間として扱われます。早着した分は荷待ちに含まれません。この扱いを知らずに到着時刻からの全時間を主張すると、荷主との突き合わせで数字が合わず、せっかくの記録の信頼性を落としてしまいます。算定方法は国土交通省のポータルサイトに整理されているので、自社の記録ルールを決める前に一度目を通しておく価値があります。
記録体制を整える実務ステップ
デジタルで残す仕組みに切り替える
手書きの伝票やドライバーの記憶に頼った記録は、入力漏れや後追いでの記入が避けられず、記録としての客観性を保てません。スマートフォンのアプリやデジタルタコグラフを使い、到着・荷役開始・荷役終了・出発の各時点を自動的に、あるいは1タップ程度の操作で残せる体制に切り替えるのが第一歩です。コストをかけずに始める物流DXの考え方と同じで、いきなり大がかりなシステムを入れる必要はありません。まずは全車両ではなく主要な荷主向けの運行から始め、記録が交渉に使える形になっているかを確かめながら広げていくほうが現実的です。
荷主に記録の目的を先に伝える
記録は運送会社側だけの努力では完結しません。荷役作業そのものを荷主側の従業員や倉庫スタッフが担うケースも多いため、何のために時刻を記録しているのかを事前に共有し、協力を仰ぐ姿勢が欠かせません。ここで「待たされた証拠を集めている」という伝わり方をしてしまうと、関係がこじれるだけで数字は集まりません。この記録は荷主側の中長期計画や定期報告にも使えるデータであるという切り口で説明したほうが、協力を得やすくなります。また、時刻が記録されているという事実そのものが、荷主側の行動を変える抑止力として働く面もあります。
蓄積した数字を交渉のテーブルに載せる
記録が溜まってはじめて、「平均して何分の荷待ちが発生している」「特定の曜日と時間帯に集中している」といった事実を数字で示せるようになります。国土交通省が告示する「標準的な運賃」には、待機時間料や積込料・取卸料が運賃とは別建ての料金として示されており、2024年3月の改定では荷待ちと荷役の合計が2時間を超える場合の割増も設定されました。標準的な運賃は荷主に支払いを強制する制度ではありませんが、国が示した算出根拠がある以上、記録された時間はそのまま請求や運賃改定の交渉材料になります。自社の原価計算と組み合わせれば、「感覚的に長い」ではなく「この作業に月あたり何時間、いくら分の原価がかかっている」という説明ができるようになります。
記録がないことのリスク
記録を残していない状態には、実務上いくつもの穴があります。
まず、業務記録の不備そのものが監査で指摘され、行政処分の対象になり得ます。荷待ち・荷役の記録は安全規則上の義務であり、「取っていない」ことは制度対応が遅れているという以前に、法令上の不備です。
次に、万が一ドライバーの過重労働や事故が問題になったとき、その原因が荷待ちにあったことを客観的に示す手段がありません。結果として、責任の所在があいまいなまま運送会社側がすべてを背負う形になりかねません。記録は、荷主に何かを要求するためだけのものではなく、いざという時に自社を守るための備えでもあります。
そして、行政に頼るときにも記録がものを言います。荷主の行為が原因で運送会社が法令違反に至った場合には、国土交通省が荷主に是正を勧告し、企業名を公表できる荷主勧告制度があります。その実働部隊として、2023年7月に162名体制で発足した「トラックGメン」は、2024年11月に「トラック・物流Gメン」へ改組され、360名規模へ拡充されました。オンラインの目安箱や最寄りの運輸局・運輸支局で情報提供を受け付けていますが、「長時間待たされている」という申告に日時と時間の記録が添えられているかどうかで、その後の動きは変わります。記録がないということは、行政という後ろ盾を使う権利を自ら手放しているのに近い状態です。
記録は交渉材料であり経営資産でもある
一見すると事務負担が増えるだけに見える記録義務ですが、視点を変えれば、これまで「仕方がない」と諦めてきた荷待ち・荷役時間の問題に正面から向き合うための材料が手に入るということでもあります。
データが溜まると、どの荷主との取引が時間あたりで効率的か、逆にどこに改善余地があるかを客観的に比較できるようになります。1台あたりの実稼働時間が見えれば、新規の引き合いを受けるかどうかの判断精度も上がります。これは、選ばれる運送会社としての体制づくりに直結する経営上の資産です。
さらに、正確な運行記録を持っていることは、受発注データが取引の実在性を裏づけるのと同じ意味を持ちます。自社が何を、どれだけ、どういう条件で運んでいるかを数字で示せる会社は、荷主との交渉だけでなく、金融機関や資金調達の場面でも自社の実力を説明しやすくなります。物流DXが信用力につながるというのは、こうした積み重ねの話です。
まとめ
荷待ち・荷役時間の短縮は、2025年4月から荷主・物流事業者の努力義務となり、2026年4月からは特定事業者に中長期計画の作成や定期報告が義務づけられました。業界平均は1運行あたり2時間2分まで縮まりましたが、基本方針が掲げる「1運行2時間以内」にはまだ届いていません。
運送会社側の実務対応は、突き詰めれば到着・荷役開始・荷役終了・出発という4つの時点を、正確に、継続的に残すことに尽きます。この記録は、貨物自動車運送事業輸送安全規則が定める義務であると同時に、標準的な運賃を根拠にした待機時間料や運賃改定の交渉材料になり、荷主勧告制度やトラック・物流Gメンに実態を伝えるときの裏づけにもなります。まずは自社の記録体制の現状を棚卸しし、デジタル化できる部分から着手してみてください。記録は取ること自体が目的ではなく、そのデータをどう使うかが本質です。
※制度の詳細・施行時期・義務の対象範囲は、必ず国土交通省の公式発表・最新の告示でご確認ください。
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